天然歯とインプラントの共存 抜歯か否か

歯科補綴の目的は欠損部の再建のみならず,欠損拡大の防止ならびに咬合状態の維持安定である.その一手段としてインプラント治療はその地位を確立しつつあり,正しい手技を用いれば高い成功率が得られ,その予知性は年々高くなっている.欧米においては再生療法が全盛であった10年前と比較し,近年インプラント治療の成功率が再生療法の成功率を上回るような論文を多数見かけるようになった.
 このようなEBMに後押しされるように,重度の歯周疾患罹患歯や骨縁下カリエス罹患歯,または複数回治療しても治癒しない根尖病巣を有する歯など,予後の判断に迷う歯に対し早期に抜歯しインプラント治療を選択するケースが増えているように思われる.確かに,予後に不安を抱える歯を保存することにより補綴方法が複雑化せざるを得ないことも事実であり,戦略的な抜歯を行って治療の効率化を図ることは一つの選択肢であると考える.
 しかし一方で,歯科治療に求められる患者の要求は近年多様化,複雑化してきており,出来るだけ天然歯を保存したいと希望する患者は当然のことながら多く,戦略的抜歯と称した残存歯の抜歯を伴うインプラント治療は,臨床的にどれほど正当性があるのか,術者の慎重な判断が必要である.いずれにせよ抜歯,非抜歯の判定は術者の考え方や患者の価値観によって大きく左右される.演者のように臨床経験の少ない若い歯科医師では予後の判断が難しい症例もあり,そのような場合予知性の低い歯であってもまずは保存を試みてからでも遅くはないのではないかと考えている.
 今回のセッションでは,インプラント補綴を用いて咬合の再構築並びに残存歯の保護を行った症例を通し,天然歯とインプラントとの共存について考察していきたいと思う