口腔インプラント手術は機能と形態を回復する形成再建手術であり,抜歯や嚢胞摘出あるいは腫瘍切除のような病変を除去する手術とはその性格が大きく異なる.形成再建手術 では,患者の欠損している部分を患者自身の組織や人工材料を移植して形態を作り装置を構築するもので,移植した組織や材料が壊死や感染により除去されることになれば,手術は単なる外傷となってしまう.そのため,口腔インプラント手術では、その目的が確実に達成される保証が必要である.
インプラント体埋入に併せて行われる自家組織や人工材料の移植では,血流を断たれた移植組織は感染に弱く,人工材料は治癒機転が欠如していることから,これらの手術では清潔な手術環境のもと,組織損傷の少ない手術を行うこと必要である.
インプラント体埋入手術ではインプラント体を顎骨の安全域に確実に収まるように埋入すれば,何ら事故は起こらないはずである.しかし,顎骨やその周囲組織の形態や大きさは個々の患者により様々であり,術者の知識は典型的な正常解剖のみでは不十分であり,解剖学的バリエーション,加齢や歯の喪失による変化についての知識が必要である.その上で画像診断などにより個々の症例での形態を把握して手術に臨まなければならない.手術は創傷治癒の原則を把握して実施する必要がある.感染をともなう創傷は治癒しないこと,創面を挫滅すれば,挫滅した組織が排除されるまで創の癒合しない,インプラント体と人工材料は直接癒合しない.血流を阻害するような切開線のデザイン,組織損傷が大きい手術操作は避けるべきである.多くの合併症は組織破壊的手術操作によって発生する.インプラント手術における致死的合併症は非常に少ないが,我々自身の診療所で偶然口腔底出血のような熾烈な合併症が起ると,そのリカバリーは非常に困難である.CAM/CAMサージカルガイドを用いたインプラント手術では,正確な埋入ができる点で有用性が高いが,適応症の誤り,粗雑な手技により大きな変位を起こす可能性がある.フラップレスの手術では緻密な骨での火傷,抜歯即時埋入での重症感染症の報告もみられる.新しい手技には新しい合併症があることを認識する必要がある.今回は外科手術のための解剖,起こり得る外科的合併症とその対応,安全に向けてのガイデッドサージェリーの導入などを中心に討論する.