近年のインプラント治療は新しい術式の確立やマテリアルの開発から適応症の拡大、より低侵襲な手術へと臨床応用されてきています。50年余にわたる歴史、高い科学的成功率や患者のQOLの向上から一般社会からも認知され、治療を希望される患者さんも急速に増加し大学病院だけでなく一般開業施設でも臨床応用する機会が増えています。しかしながら、トラブルも増加傾向にあり昨今、週刊誌、テレビ等で多々報告されるようになり患者さんの不信、不安、猜疑心を募らせていることも事実です。
その多くは医療サイドの知識不足や未熟な技術、経験不足、説明理解の不行き届き、システムの不理解などから起こっています。また、安易に骨移植ケースや多数歯欠損症例等の難症例に臨床応用した結果から生じることも少なくありません。これらは、適応症の誤りによるものです。また近年、手術時間や出血を軽減できるとされる低侵襲手術に代表されるフラップレスサージェリーやガイドサージェリーを安易に臨床応用した結果、不用意や不適切な術式から血管を損傷する、神経麻痺を起こさせる、他の部位に迷入するなどの重篤なトラブルが生じています。まさに科学(デジタルテクノロジー)を信じ過ぎることによるヒューマンエラーです。術者は勿論、診療に当たる全員が一期一会と自覚し、いつ起こるかもしれない偶発症に対しての日常からの物心共の備え、複数の感性で危険を察知して未然に防ぐ協力体制、それでもトラブルが起こったときは早期に適切な対応すること。適応症を守り、正しい知識、技術、考え方、さらに正しい情報収集、ネットワーク、チームワークが重要と考えております。
安全確実安心な医療の提供のためには、大切なものに保険をかけると同様に、臨床には安全という保険をかけた医療の選択が重要です。万が一の際にも患者さんが困らないようなインプラント治療の計画、設計、処置、トラブルを察知する能力は重要で、生身の患者さんに対して想定外!? の一言では済まされるものではありません。患者さんの立場に立った治療計画は、結果的には長期にわたる安全につながります。一人一人の患者さんの10年20年先を見据えた配慮がどれだけできるか? 今、歯科医師には要求されていることと言えるでしょう。講演では私が日常臨床で行っている配慮に関してお話させていただき何か明日からの臨床のポイントになりましたら幸いです。
~つまずいても転ばない医療の提供のために~